人参の栄養素とそれらの効能について解説していきます。人参の栄養を無駄なく摂取する効果的な調理法や食べ合わせも紹介します。
人参の原産地はアフガニスタンで、トルコを経てヨーロッパに伝わった西洋種と、アジア東方に伝わった東洋種があります。日本には江戸時代に東洋種が伝わり、西洋種が入ってきたのは明治以降と言われています。現在、日本で流通しているのはほとんどが西洋種です。
人参の栄養素はなんといってもβ-カロテン(ビタミンA)です。ちなみに、京人参など東洋系人参の赤みは、トマトに豊富に含まれていることで有名なリコピンによるものです。
生の人参の根の可食部100gあたり
エネルギー...35kcal
水分...89.1g
たんぱく質...0.7g
炭水化物...9.3g
脂質...0.2g
食物繊維...2.8g
三大栄養素とは炭水化物・脂質・たんぱく質を指します。野菜には少ないたんぱく質や炭水化物(糖質)が主成分です。
また人参は約90%が水分でできています。
糖質は(炭水化物から食物繊維を引いた値)6.5gです。やや糖質とエネルギー量が高めです。
人参:糖質6.5g、35kcal
トマト:糖質2.9g、20kcal
ピーマン:糖質2.8g、20kcla
じゃがいも:糖質8.4g、59kcal
さつまいも:糖質17.1g、78kcal
です。芋類よりは低いですが、他の野菜と比べても人参は糖質が高めなのがわかります。人参の糖類はショ糖が主体であるため、甘味が強くなっています。
出典:文部科学省|日本食品標準成分表2020年版(八訂)
人参は特にβ-カロテンが豊富に含まれています。人参のオレンジ色はβ-カロテンの色です。
β-カロテンは、皮膚や喉などの粘膜や細胞の代謝を促進する働きがあり、体外からのウィルスや細菌の侵入を防ぐ事で免疫力をアップし病気にかかりにくくなります。また抗酸化作用もあるので、アンチエイジング作用があります。亜鉛が補酵素に入ると、β-カロテンがレチナールへ、さらにレチナールにナイアシンが結合することで体内に作用します。ビタミンAとしての働きを促すにはミネラルの亜鉛、ビタミンB群のナイアシンも必要になります。
カロテンの語源はキャロット(carrot)であることからも、人参のβ-カロテン含有量は野菜の中でトップです。
他の野菜と比較すると、
人参…8600μg
ほうれん草…5400μg
赤色パプリカ…1100μg
かぼちゃ…730μg
トマト…540μg
ピーマン…400μg
で、人参の含有量の多さが分かります。
中サイズの人参半分で一日の推奨摂取量を軽く上回るといわれています。
変換されたビタミンAは、皮膚や目、口、喉、内臓などの粘膜や細胞の代謝を促進する働きがあります。視力を正常に保つ役目もあり、夜盲症の予防や視力低下の抑制があります。また皮膚の健康維持に関与していることから、美肌効果もあります。皮膚の新陳代謝が高まることで、乾燥肌やニキビ肌の改善が考えられます。
α−カロテンは、緑黄色野菜に含まれるカロテノイドのひとつで、β-カロテンと同じく体内でビタミンAに変換されます。ビタミンAは、皮膚や目、口、喉、内臓などの粘膜や細胞の代謝を促進する働きがあるため健康に保ちます。そのため、体外からのウィルスや細菌の侵入を防ぎ感染症を予防する効果が大きく、免疫力を高めます。
特に多いわけではありませんが、葉酸も人参に含まれています。
葉酸はほうれん草の葉っぱから発見されたビタミンB群のひとつで、ビタミンB12と一緒に正常な赤血球をつくるのに必要な栄養素で「造血ビタミン」とも言われています。赤血球は約4ヶ月で生まれ変わり体内では常に新しい赤血球が作られています。
また、たんぱく質や核酸の合成を助け、細胞の新生や増殖に深く関わっています。細胞分裂が活発な胎児期に必須の栄養素で、特に妊婦の方は葉酸を十分に摂ることでおなかの赤ちゃんの発達異常を防ぐ効果があると言われています。
オロト酸ビタミン様物質の一つで、葉酸やビタミンB12の代謝を助ける作用があります。葉酸はDNAを形成し、ビタミンB12は貧血を防ぐため、妊娠初期の妊婦さんに摂取が勧められる栄養素です。さらに、オロト酸には中毒による肝障害の回復を早める効果もあると言われています。
食物繊維は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に分けられます。人参にはどちらも含まれていますが、不溶性食物繊維が3倍多いです。
水溶性は水に溶解する性質を持っており、水溶性食物繊維は水に溶けるととろとろ・ネバネバして糖質の消化や吸収を穏やかにする作用があります。不溶性は液体に溶解しない性質を持っており、不溶性食物繊維は水分を吸って腸の中で大きく膨らみ、排便をスムーズにし、有害物質が体にとどまる時間を短縮させ、便秘の予防・改善、腸内環境を整えます。
カリウムはミネラルの一種です。
カリウムはナトリウム(食塩)と協力し細胞の浸透圧を維持しています。体内に十分なカリウムがあると、余分な食塩を排出して血圧を正常に保ちます。しかし、カリウム不足や塩分の過剰摂取が続く、むくみなどの原因になります。
そのほか、腎臓の老廃物の排出を助けたり、筋肉の収縮をスムーズにする働きもあります。
参考文献:栄養学博士 白鳥早奈英 監修(2021)『最新改訂版 知っておきたい栄養学』学研プラス
β-カロテンは皮のすぐ下に最も多く含まれています。その量なんと中心部の2.5倍です。ポリフェノールも中心部の4倍多く含まれています。無農薬のものなどはなるべく皮ごと食べるようにしましょう。剥く場合もなるべく薄く剥くようにしましょう。皮は正式には「内鞘(ないしょう)細胞」と呼ばれ、可食部の一部です。
「傷んだ人参を切ったら、中がスカスカだった」という経験がある方も多いかと思います。実際、人参の中心部は時間が経つと栄養が抜けて、食物繊維のみの状態になっていきます。
そのため、皮ごと輪切り、乱切りなどが無駄なく栄養を摂ることができます。
β-カロテンは加熱することで吸収率が1.5〜2倍にアップ。これは細胞内で溶解して、吸収されやすくなるからです。そのため、加熱料理がおすすめです。ただし、高温での加熱が長いと一部が壊れてしまうので、火を通す時間は短時間にするといいでしょう。
さらに、脂溶性なので野菜炒めなど油を使うことでβ-カロテンの吸収率が6倍にもなります。人参は炒め物などで調理し、積極的に油と一緒に摂りましょう。また鶏肉などと一緒に食べれば、鶏肉の脂質でβ-カロテンの吸収率が高まります。β-カロテンの吸収率が高くなれば、動脈硬化の改善や美肌効果にも繋がります。また、人参を生食する場合でも、油が入ったドレッシングと合わせるだけでそのまま食べるより4倍の吸収率になります。
β-カロテンは細かくするほど増えます。また、大きく切った人参よりもすりおろした方がβ-カロテンの吸収率もアップするため、人参を皮つきのまますりおろすといいでしょう。
すりおろした人参はポタージュや、野菜スープやドレッシングにできます。また、オムレツやハンバーグに混ぜてもおいしいですよ。人参嫌いな子供にもおすすめです。
人参に特に豊富な栄養はβ-カロテンとカリウム。β-カロテンは脂溶性ですが、カリウムは水溶性なのが特徴です。人参の栄養を逃さないようにするにはなるべく茹でる時間を短くするようにしましょう。
生の人参に含まれる酵素「アスコルビナーゼ」はビタミンCを破壊するというのが定説でしたが、実際には酸化させるだけで、酸化したビタミンCは体内で還元され通常のビタミンCと同じ働きをするといわれています。
この酵素は細かくすることで活性化します。すりおろしのドレッシングやジュースなどで使うとき、ビタミンCの酸化が心配な方は、酢をかけるか、50℃以上で加熱すると酵素の働きを止めることができます。
参考文献:栄養学博士 白鳥早奈英 監修(2021)『最新改訂版 知っておきたい栄養学』学研プラス
栄養が豊富な人参の葉ですが、そのまま保存すると根の栄養を吸収してしまいます。買ってきたらすぐに切り落とすようにします。保存も別々でしましょう。
人参を冷蔵保存・冷凍保存すると減る栄養素はあります。しかし増える栄養素もあります。たとえば人参の根を冷凍保存すると、カリウムは3分の2に減ってしまいますが、ナトリウムは約2倍に増えます。他にもβ-カロテンは増えますが、ビタミン類は減ってしまいます。
また、人参はヘタの近くに生長点があるため、保存期間が長いとその部分は葉を生やそうと栄養価を消費していきます。そのため、食べるときはヘタに近い部分からにしましょう。
人参には様々な品種がありますが、種類によって含まれる栄養素に違いがあります。
赤みが強い東洋種の人参はリコピンが豊富という違いがあります。リコピンはトマトに含まれていることで有名ですが、赤やオレンジの色素成分であるカロテノイドのひとつで、β-カロテンの仲間です。リコピンはカロテノイドの中でも抗酸化作用が強く、体の健康を保ち老化防止の効果があります。
人参のGI値は70で、高GIに分類されます。かぼちゃで65、とうもろこしで75です。
GIとは、グライセミック・インデックス(Glycemic Index)の略で、食後の血糖値の上昇度を表す値です。食品の炭水化物を50g摂取した際の血糖値の上昇度合いを、ブドウ糖(グルコース)を100とした場合の相対値で表します。55以下を低GI、56〜69を中GI、70以上を高GIと分類し、GI値が高ければ高いほど血糖値が急上昇します。急激な血糖値の上昇は、体に負担をかけるため、緩やかな上昇が理想的です。
人参は糖質もやや高めでGI値も高いので、一度に大量摂取すると高血圧の原因になるので注意が必要です。
当然ですが、新鮮な人参の方が栄養価が高いです。新鮮な人参の特徴は下記です。
なめらかな肌のもの、でこぼこのない
肩がはっている
ひげ根の少ないもの
ひげ根の跡の間隔が均一で真っ直ぐに並んでいる
オレンジ色が濃い
根の先まで太い
また、人参の旬は秋〜冬です。冬場の人参の方が糖度が高く実も柔らかいのが特徴。生で食べる場合は旬の時期に販売されている人参にしましょう。
アントシアニンは目の機能アップがあります。β-カロテンにも眼精疲労を予防する効果がありますので、一緒に摂取することで目の疲れを取ることが期待できます。レーズンとにんじんでサラダにしたりすると◎
ワカメにはヨウ素が豊富に含まれています。これは海水の中になるヨウ素を吸収して育つからです。このヨウ素には新陳代謝を活発にする働きがあります。それによってβ-カロテンの抗酸化作用が活発になり、きれいな髪がつくられます。さらに免疫力もアップするので風邪予防にも効果があります。
人参にはビタミンCがあまり含まれていないのでビタミンCが多く含まれる野菜と一緒に摂取しましょう。
ビタミンCは抗酸化力はトップクラスで細胞を酸化から守り老化や生活習慣病の予防にもなります。ビタミンAにも抗酸化作用がありますので、ビタミンCで相加効果で抗酸化作用がアップします。
ビタミンA・C・Eの3つはビタミンエースと呼ばれており、抗酸化3大ビタミンです。免疫力が高まり、サビついた細胞の修復を助けてくれます。そのためビタミンCだけでなく、ビタミンEも一緒に摂取することで抗酸化作用の効果がアップします。
ビタミンEが豊富な食材には、アーモンドや落花生、ヘーゼルナッツなどのナッツ類があります。他にもかぼちゃやさつまいもにもビタミンEは含まれます。
人参は冬場ならば常温保存することができます。一本ずつ新聞紙に包みます。新聞紙がない場合は、キッチンペーパーでもOKです。暑さ・湿気を嫌うので、温度が低く一定に保たれており、直射日光が当たらず、風通しがよい冷暗所で保存するようにしましょう。
土に浅く埋める方法もあります。通常の常温保存よりも長持ちします。
立てて保存するのもポイントです。野菜は育った状態に同じように保存するとストレスがかからず、長く保存できます。
キッチンペーパーが湿気ったら、こまめに替えるようにしましょう。
人参は夏場は必ず冷蔵保存します。冬場でも2〜3週間保存したい場合は冷蔵庫の野菜室に入れましょう。このときもキッチンペーパーに包み、ポリ袋に入れて、立てて保存します。買ってきた袋のまま冷蔵するのは厳禁です!
2週間以上保存したい場合は、ヘタの部分は切ると長持ちします。にんじんのヘタの近くに生長点があり、保存期間が長くなると葉を生やそうと根の栄養分を消費してしまうためです。すぐ食べる場合はわざわざカットする必要ありません。かえって酸化が進みます。
人参は生のまま冷凍してもOKです。使い勝手いいように、お好みでカットをしましょう。写真はいちょう切りと細切りです。切った後にキッチンペーパーで水けをしっかり拭き取って、冷凍用のジッパー付きポリ袋に入れて、空気をしっかり抜き、冷凍庫へ。
冷凍する前に茹でたり蒸したりして加熱処理することをブランチングといいます。ブランチングすると使うときに火の通りが早くて使い勝手がよい、以外に、変色しにくい、食感が悪くなりにくい、風味が落ちにくい、というメリットがあります。家庭用の冷凍庫は温度が急速冷凍ができませんので、ダイレクトフリージング(茹でずに冷凍)は向きません。時間がある方はなるべくブランチングするようにしましょう。
調理するときに使う切り方にします。写真では輪切りにしています。
冷凍するときは硬めに下茹でします。竹串を強く刺してやっと刺さるくらいが目安です。解凍方法ですが、基本的に冷凍したまま調理に使ってOKです。冷凍した人参は直接料理に使うと水が出るので、炒め物などで水けを嫌う料理の場合は、前日に冷蔵庫に移し自然解凍しましょう。お急ぎの場合は電子レンジを使って解凍する方法もあります。
その他、詳しい人参の保存方法はこちらの記事をご覧ください。
最後に、人参を使ったおすすめのレシピをご紹介します。
Filyのレシピはすべて小麦粉・乳製品・白砂糖を使っていません。
「グラッセ」とはフランス料理で、バターを加え煮つめつやを出した料理のことを指します。ステーキやハンバーグなどの付け合わせにぴったりの一品です。
人参は油と一緒に摂ると、豊富に含まれるβ-カロテンの吸収率がアップします。
このレシピでは、砂糖の代わりにメープルシロップを使っています。
人参グラッセのレシピはこちら
人参とししとうがウスターソースにからまり美味しい一皿です。ごはんがよく進みます。
ししとうには、人参にあまり含まれていないビタミンCが豊富なので、栄養面でもよい組み合わせです。
人参とししとうのソース炒めのレシピはこちら
人参を1本使ったヘルシーそぼろです。水分がほとんどなくなるまで、しっかり炒めましょう。
鶏肉の油分で、人参のβ-カロテンの吸収率がアップします。
人参とりそぼろのレシピはこちら
人参が苦手な方でもおいしくいただけるレシピです。
人参は揚げてもβ-カロテンの吸収率がアップします。
人参チップスのレシピはこちら
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