ほうれん草はビタミンCが豊富な野菜なのか、他の野菜と比較しながら解説していきます。
ビタミンCは、オレンジ果汁から発見された栄養素です。これは16〜18世紀の大航海時代に、船員たちが新鮮な野菜や果物の摂取量が極端に少ないことから流行した壊血病を予防するために発見されました。多くの哺乳類は体内でブドウ糖からビタミンCを合成することが出来るのですが、人など一部の哺乳類は合成に必要な酵素がないためビタミンCを合成できず、食事から摂取しなければなりません。
ビタミンCはたんぱく質からコラーゲンを合成する働きがあります。コラーゲンは、細胞間の結合組織で、血管や皮膚、骨、筋肉などを丈夫にします。コラーゲンによって、肌にハリ・ツヤが生まれます。シミのもとであるメラニン色素の合成も抑えるなど美肌づくりに大切な栄養素です。
その他、ビタミンCには白血球を活性化させて免疫力を高める作用もあります。抗ストレスホルモンの合成にも欠かせない栄養素です。
参考文献:栄養学博士 白鳥早奈英 監修(2021)『最新改訂版 知っておきたい栄養学』学研プラス
ビタミンCはよく加熱に弱いと言われますが、「ビタミンCが熱に弱いという説は嘘!」という意見も見受けられます。どちらが正しいのでしょうか?
ビタミンCの熱への耐性に関して意見が割れているのは、ビタミンCには2種類あるからです。実はビタミンCには「還元型ビタミンC」と「酸化型ビタミンC」というものがあり、2つを合わせてビタミンC(または「総ビタミンC」)と言われています。
熱に弱いのが酸化型ビタミンCです。還元型ビタミンCはほとんど分解されることはないのですが、酸化型ビタミンCは一度分解してしまうとビタミンCには戻ることができず、この分解反応が加熱することで早く進むので「ビタミンCは加熱に弱い」と言われます。厳密には酸化型ビタミンCは熱に弱い、ですね。
新鮮な野菜や果物に含まれるビタミンCは大部分が還元型なので、基本的にビタミンCが加熱によって壊れることはありません。
しかし、切ったりすりおろすことで還元型ビタミンCの一部が酸化型ビタミンCに変換されてしまうので(つまり酸化するということ)、やや加熱に弱くなってしまいます。また、野菜に含まれる「アスコルビン酸(ビタミンC)酸化酵素」の作用でも、還元型ビタミンCの一部が酸化型ビタミンCに変換され、やや熱に弱くなってしまいます。
野菜に含まれるビタミンC(還元型ビタミンC)は熱に弱い、というのは間違いであることがわかりましたが、そのように誤解される理由に、ビタミンCが水溶性であることが挙げられます。
ビタミンCは茹でたり、水にさらしたりすると、水に溶け出してしまいます。皮を剥いたり、切ることでビタミンCはより多く流失してしまいます。野菜のビタミンCを守りたいなら「丸ごと皮付き」がおすすめです。また、電子レンジで加熱する、スープにして汁ごといただくなども、ビタミンCを無駄にしないおすすめの方法です。
脂溶性のビタミンはA・D・E・Kで、それ以外は水溶性です。
ビタミンCは、成人1日あたりの推奨量が100mgに設定されています。通常の食事による過剰摂取の報告はないため、耐容上限量は定められていません。
1日100〜200mg程度摂取すると吸収率は80〜90%と高いですが、1g以上摂取すると50%以下に低下します。また喫煙者はビタミンCの消費が激しいので、一般成人の2倍は摂ることをおすすめします。
出典:厚生労働省|日本人の食事摂取基準(2020年版)
ビタミンCは多く摂取しても体内に蓄積されないため、食品からビタミンCを摂取する場合は摂りすぎの心配はほとんどありません。しかし、例えばサプリなどによるビタミンCの過剰摂取は注意が必要です。ビタミンCは過剰摂取すると下痢や便秘、腹痛などを引き起こすことがあります。これは消化器官に不調をきたすためです。もし肝臓機能に障害がある場合は尿路結石のリスクが高まるとも言われています。
ただし、ビタミンCは摂取後2〜3時間で排泄されるため、毎食補うようにすることをおすすめします。
参考文献:栄養学博士 白鳥早奈英 監修(2021)『最新改訂版 知っておきたい栄養学』学研プラス
ほうれん草のビタミンC含有量は、100gあたり35mgです。
野菜の中ではそこまで多くありません。
100gあたり
パプリカ…170mg
ブロッコリー…120mg
かぼちゃ…43mg
じゃがいも…28mg
トマト…15mg
レタス3mg
パプリカが多く含まれています。他の野菜と比べるとほうれん草は少なめであることが分かります。
アセロラ(酸味種)…1700mg
レモン…100mg
りんご…6mg
果物だと、実はレモンよりもアセロラの方が多く含まれています。
出典:文部科学省|日本食品標準成分表2020年版(八訂)
ほうれん草は、冬に収穫されたものの方が栄養価が高くなります。これは、冬が旬であることに由来しています。
ちなみに、冬のほうれん草は肉厚で苦味が少なく、甘みが増すのでとてもおいしいです。やはり、野菜は旬の時期のものがおいしいんですよね。
旬の時期に栽培されたものは、ハウス栽培ではなく露地栽培されるので、太陽に当たる時間が長くなります。その結果、光合成によってビタミンCの含有量が多くなり、通年平均のほうれん草100gあたりのビタミンC含有量が35mgなのに対し、冬採りのものは60mgにもなります。
出典:文部科学省|日本食品標準成分表2020年版(八訂)
ほうれん草にはシュウ酸が含まれているため、下茹では必須です。
しかし、ほうれん草を茹でると100gあたりのビタミンC含有量は19mgになります。通年平均の生のほうれん草は35mgですので、16mgも減ってしまいます。
シュウ酸は、3分茹でると半分ほどに消失すると言われています。
出典:文部科学省|日本食品標準成分表2020年版(八訂)
油で炒めたほうれん草100gあたりのビタミンC含有量は21mgです。
油で炒めたほうれん草もビタミンCは減ってしまいます。しかし、他の脂溶性の栄養素の吸収率がアップします。脂溶性ビタミンにはビタミンA、D、E、Kがあります。
出典:文部科学省|日本食品標準成分表2020年版(八訂)
電子レンジで加熱をしてもビタミンCは少し減ります。
しかし残存率は93%で茹でるよりも多くのビタミンCが残ることが分かります。
出典:長島和子『電子レンジ加熱料理による野菜類のビタミンC含量の変化』
明確な数値はわかりませんが、冷蔵保存でビタミンCは減少することが分かっています。なんと冷蔵保存すると、9日間で70%ものビタミンCが失われてしまいます。
また、葉物野菜は温度が高いほどビタミンCが失われやすいので、チルド室ではなく冷蔵室に入れておく方がいいです。
冷凍したほうれん草100gあたりのビタミンC含有量は19mgです。生が35mgですので、16mgも減少しています。
しかし、冷蔵保存よりも残存率が高いので、冷蔵保存よりも冷凍保存がおすすめです。
詳しいほうれん草の保存期間はこちらをご参照ください。
出典:文部科学省|日本食品標準成分表2020年版(八訂)
ほうれん草はビタミン・ミネラルが豊富で、緑黄色野菜の王様とも言えます。
ほうれん草の詳しい栄養素についてはこちらの記事をご覧ください。
β-カロテンは、皮膚や喉などの粘膜や細胞の代謝を促進する働きがあり、体外からのウィルスや細菌の侵入を防ぐ事で免疫力をアップし病気にかかりにくくなります。また抗酸化作用もあるので、アンチエイジング作用があります。亜鉛が補酵素に入ると、β-カロテンがレチナールへ、さらにレチナールにナイアシンが結合することで体内に作用します。ビタミンAとしての働きを促すにはミネラルの亜鉛、ビタミンB群のナイアシンも必要になります。
変換されたビタミンAは、皮膚や目、口、喉、内臓などの粘膜や細胞の代謝を促進する働きがあります。視力を正常に保つ役目もあり、夜盲症の予防や視力低下の抑制があります。また皮膚の健康維持に関与していることから、美肌効果もあります。皮膚の新陳代謝が高まることで、乾燥肌やニキビ肌の改善が考えられます。
葉酸はほうれん草の葉っぱから発見されたビタミンB群の一つで、ビタミンB12と一緒に正常な赤血球を作るのに必要な栄養素で「造血ビタミン」とも言われています。赤血球は約4ヶ月で生まれ変わり体内では常に新しい赤血球が作られています。
また、たんぱく質や核酸の合成を助け、細胞の新生や増殖に深く関わっています。細胞分裂が活発な胎児期に必須の栄養素で、特に妊婦の方は葉酸を十分に摂ることでおなかの赤ちゃんの発達異常を防ぐ効果があると言われています。
鉄分はミネラル成分の一つです。体に必要な栄養素で、成人のからだには約3〜5gの鉄が存在しています。
鉄は大きく分けて2種類あります。一つは機能鉄といって赤血球のヘモグロビンの材料となり、酸素を運びます。
もう一つは貯蔵鉄といって肝臓や骨髄、筋肉などに蓄えられており、機能鉄が不足すると体内に放出されます。また、酵素の構成成分で、エネルギー代謝を助ける働きがあります。
ビタミンA・C・Eはその文字から「ビタミンエース」と呼ばれ、抗酸化3大ビタミンです。活性酸素に抗酸化作用を発揮して、細菌やウイルスの体内侵入を防いでいます。また錆びついた細胞の修復も助ける、素晴らしい栄養素です。その3つがほうれん草には含まれています。
ビタミンEは強力な抗酸化作用があります。体内の脂質が酸化するのを抑え、老化の予防をしてくれます。ビタミンEは血液中の悪玉コレステロールの酸化を抑える働きがあり、酸化によって進行してしまう動脈硬化の予防に役立ちます。
さらにビタミンEは末梢血管の拡張させる働きがあるため、血行促進に繋がります。また副腎や卵巣の性ホルモンの分泌の調整にもビタミンEは関与しているので、生殖機能の維持にも役立ちます。
ビタミンKは血液を凝固させる成分を合成する働きがあり、出血を止める役割があります。月経による出血が多い場合も、症状を軽減する効果が期待できます。
さらに、ビタミンKは、骨から血液中にカルシウムが放出されるのを抑え、骨にカルシウムが沈着するのを助けてくれるので、ビタミンDと並び健康な歯や骨を作るのに欠かせないビタミンです。
カリウムはミネラルの一種です。
カリウムはナトリウム(食塩)と協力し細胞の浸透圧を維持しています。体内に十分なカリウムがあると、余分な食塩を排出して血圧を正常に保ちます。しかし、カリウム不足や塩分の過剰摂取が続く、むくみなどの原因になります。
その他、腎臓の老廃物の排出を助けたり、筋肉の収縮をスムーズにする働きもあります。
体内の99%のカルシウムは貯蔵カルシウムとして骨や歯の材料となります。骨の代謝に関わり骨の健康を保っています。
残りの1%は機能カルシウムとして、血液や筋肉、細胞内などに存在し、大切な情報の伝達を行っています。それによって筋肉のなめらかな動きをサポートしたり、精神を安定させたりします。
カルシウムが不足すると、骨が弱くなったりこむら返りを起こすことがあります。特に野菜などのカルシウムは吸収率が低いため、ビタミンKなどカルシウムの吸収を助ける栄養素と一緒に摂取するといいでしょう。
クロロフィルは葉緑素とも言われている、植物や藻類に含まれる緑色の天然色素です。主成分はマグネシウムで、体内からダイオキシンやコレステロールなどの排出をしたり、胃腸粘膜の保護や修復をする作用があります。クロロフィルには抗酸化作用と浄化作用があり口臭・便秘予防の効果があると言われています。
参考文献:栄養学博士 白鳥早奈英 監修(2021)『最新改訂版 知っておきたい栄養学』学研プラス
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