野菜は下茹ですると栄養素が流れ出てしまうのですが、ほうれん草のようにアクが強く下茹で必須な野菜はどうすればよいのでしょうか?
まずはじめに、そもそもほうれん草はなぜ下茹でが必須なのか解説します。
ほうれん草を下茹でするのは、シュウ酸が多く含まれているからです。いわゆるえぐみの正体がこのシュウ酸です。
シュウ酸は栄養素というよりも老廃物です。人体での合成量は微量で、ほとんどが食物から摂取されています。結石の原因になるので摂り過ぎには注意する必要がありますが、相当量摂取しない限りは過剰症にはならず、健康上の問題はあまりないとされています。
ただ、シュウ酸は水溶性であるため、茹でることで大半を減らすことができます。分茹でると3分の1〜2分の1が消失します。
ただし、電子レンジではアク抜きはできません。シュウ酸が残ってしまい、酸味が感じられることも。アク抜きの場合は茹でる方がいいでしょう。
出典:農林水産省|ほうれんそうのお浸しを電子レンジで調理したが、アクが強くえぐみを感じた。アクが気になる場合は、茹でた方がよいのか教えてください。
ほうれん草は下茹ですると色が鮮やかになります。これは、沸騰したお湯に浸すことで、酸化による褐変を防ぎ退色しないようにします。
このとき、褐変させる酵素が40℃くらいで活発になるため、ほうれん草を茹でるときは沸騰したお湯に入れましょう。長時間の加熱も褐変の原因となるため、さっと茹でたら、一気に冷やすために冷水にとります。
ほうれん草を下茹でしても、すべての栄養素が流れ出るわけではありません。
流れ出るのは水溶性の栄養素です。例えば、ビタミンCやカリウムなどがあります。しかし、水溶性もすべて流れ出るわけではありません。ほうれん草100gあたりを茹でると、ビタミンCは35mg→19mg、カリウムは690mg→490mgに減ります。
また、水溶性ではない栄養素は残ります。ビタミン類だとビタミンA、D、E、Kが脂溶性であるため、茹でても減りません。むしろカサが減ることで100gあたりの含有量は増えます。
食物繊維は茹でることで増える野菜と減る野菜があります。ほうれん草は、茹でると食物繊維が増えます。生のほうれん草100gあたり2.8gであるのに対し、茹でたほうれん草は3.6gです。
その原因はよくわかっていません。食物繊維は測定方法も複数あり、それによって含有量が大きく変わります。
「ほうれん草に栄養はない」と言われる理由は主に茹でることで栄養素が一部流れ出てしまうことですが、元々含まれていない栄養素もあります。
ほうれん草にはビタミンB群があまり含まれていません。ビタミンB12は、肉類や魚介類、乳製品などに含まれる成分で、野菜にはほとんど含まれておらず、ほうれん草も含有量はゼロ。またビタミンDも一切含まれておらず、こちらもほとんど野菜には含まれていません。
ちなみに、ほうれん草の旬は冬で、冬に収穫されたものの方が栄養価が高くなります。ハウス栽培ではなく露地栽培されるので、太陽に当たる時間が長くなり、その結果光合成によりビタミンCの含有量が約2倍多くなります。
ほうれん草に限らず野菜は加熱することで栄養素が失われますが、カサが減るというメリットがあります。
生のままだと沢山食べられない野菜でも、加熱することでカサが減り、たくさんの量を食べることができます。たくさん食べられれば、その分たくさん栄養を摂取できます。
「たくさん食べられる」というのは、見逃されがちですが栄養面では非常に重要です。例えば、唐辛子やレモンのように100gあたりのビタミンC含有量が非常に高い野菜でも、多く食べられなければ何の意味もありません。
上述しましたが、ほうれん草には水溶性である栄養素が含まれています。そのため茹で時間は短くしましょう。
ほうれん草を茹でるときは根本から浸かるようにしましょう。まずほうれん草を立てるように持ったまま根本から鍋に入れ、10秒程経ったら葉まで入れ、30秒〜1分ほど茹でます。茹で上がったほうれん草はすぐに冷水に冷やすことで、アク抜きができ、また綺麗な色を保つことができます。
切ってから茹でると、切り口からどんどんビタミンCなど水溶性の栄養素が流れて出てしまうので、茹でる前には切らないようにしましょう。
ほうれん草の根本を切り落とすのもNGです。同じく切り口から水溶性成分が溶け出してしまいます。下茹でをするときは、丸ごと茹でるようにしましょう。
β-カロテン(ビタミンA)は脂溶性なので、油と一緒に摂ると吸収率が高くなります。油で炒めたりすると、カサも少なくなるので、たくさん食べられるメリットもあります。
ほうれん草にはβ-カロテン以外にも、ビタミンEやKも含まれており、これらも脂溶性です。さらに、油はほうれん草に豊富に含まれるカルシウムの吸収率もアップさせます。
ただし、油を摂り過ぎると、ニキビや肥満の原因になりますので、注意しましょう。
ほうれん草のビタミンCは失われやすいです。ここで、1番おすすめなのが40〜50℃の低温蒸しです。ほうれん草は環境のストレスを受けると、自分の身を守ろうと栄養や糖を蓄えようという働きがあります。低温でじっくり熱を加えることはほうれん草にとって適度なストレスとなり、ビタミンCが2倍にアップします。この低温蒸しの方法はそれぞれ適した温度は変わりますが、他の野菜でも効果があります。
ほうれん草の生長点は葉先なので、ビタミンなどは葉先にたっぷりと含まれています。
ビタミンが多いほうれん草は色が濃くなるので、買い物をする際はほうれん草の葉先の色が濃いものを選ぶようにしましょう。
ほうれん草の鉄の含有量は野菜の中でトップクラスを誇ります。
鉄分はミネラル成分の一つです。体に必要な栄養素で、成人のからだには約3〜5gの鉄が存在しています。
鉄は大きく分けて2種類あります。一つは機能鉄といって赤血球のヘモグロビンの材料となり、酸素を運びます。
もう一つは貯蔵鉄といって肝臓や骨髄、筋肉などに蓄えられており、機能鉄が不足すると体内に放出されます。また、酵素の構成成分で、エネルギー代謝を助ける働きがあります。
β-カロテンは、皮膚や喉などの粘膜や細胞の代謝を促進する働きがあり、体外からのウィルスや細菌の侵入を防ぐ事で免疫力をアップし病気にかかりにくくなります。また抗酸化作用もあるので、アンチエイジング作用があります。亜鉛が補酵素に入ると、β-カロテンがレチナールへ、さらにレチナールにナイアシンが結合することで体内に作用します。ビタミンAとしての働きを促すにはミネラルの亜鉛、ビタミンB群のナイアシンも必要になります。
変換されたビタミンAは、皮膚や目、口、喉、内臓などの粘膜や細胞の代謝を促進する働きがあります。視力を正常に保つ役目もあり、夜盲症の予防や視力低下の抑制があります。また皮膚の健康維持に関与していることから、美肌効果もあります。皮膚の新陳代謝が高まることで、乾燥肌やニキビ肌の改善が考えられます。
葉酸はほうれん草の葉っぱから発見されたビタミンB群の一つで、ビタミンB12と一緒に正常な赤血球を作るのに必要な栄養素で「造血ビタミン」とも言われています。赤血球は約4ヶ月で生まれ変わり体内では常に新しい赤血球が作られています。
また、たんぱく質や核酸の合成を助け、細胞の新生や増殖に深く関わっています。細胞分裂が活発な胎児期に必須の栄養素で、特に妊婦の方は葉酸を十分に摂ることでおなかの赤ちゃんの発達異常を防ぐ効果があると言われています。
ビタミンCはたんぱく質からコラーゲンを合成する働きがあります。コラーゲンは、細胞間の結合組織で、血管や皮膚、骨、筋肉などを丈夫にします。コラーゲンによって、肌にハリ・ツヤが生まれます。シミのもとであるメラニン色素の合成も抑えるなど美肌づくりに大切な栄養素です。
その他、ビタミンCには白血球を活性化させて免疫力を高める作用もあります。抗ストレスホルモンの合成にも欠かせない栄養素です。
ビタミンKは血液を凝固させる成分を合成する働きがあり、出血を止める役割があります。月経による出血が多い場合も、症状を軽減する効果が期待できます。
さらに、ビタミンKは、骨から血液中にカルシウムが放出されるのを抑え、骨にカルシウムが沈着するのを助けてくれるので、ビタミンDと並び健康な歯や骨を作るのに欠かせないビタミンです。
体内の99%のカルシウムは貯蔵カルシウムとして骨や歯の材料となります。骨の代謝に関わり骨の健康を保っています。
残りの1%は機能カルシウムとして、血液や筋肉、細胞内などに存在し、大切な情報の伝達を行っています。それによって筋肉のなめらかな動きをサポートしたり、精神を安定させたりします。
カルシウムが不足すると、骨が弱くなったりこむら返りを起こすことがあります。特に野菜などのカルシウムは吸収率が低いため、ビタミンKなどカルシウムの吸収を助ける栄養素と一緒に摂取するといいでしょう。
クロロフィルは葉緑素とも言われている、植物や藻類に含まれる緑色の天然色素です。主成分はマグネシウムで、体内からダイオキシンやコレステロールなどの排出をしたり、胃腸粘膜の保護や修復をする作用があります。クロロフィルには抗酸化作用と浄化作用があり口臭・便秘予防の効果があると言われています。
参考文献:栄養学博士 白鳥早奈英 監修(2021)『最新改訂版 知っておきたい栄養学』学研プラス
さらに詳しいほうれん草の栄養に関してはこちらの記事をご覧ください。
ほうれん草に含まれるビタミンCは、たんぱく質がコラーゲンになるのに必要不可欠です。そのため、肉類や魚介類、豆類と一緒にほうれん草を摂ると、いわゆる美肌効果や基礎代謝アップが期待できます。また、たんぱく質はカルシウムの体内吸収率を高める作用もあります。
ビタミンCは水溶性なので、おひたしにしたり、煮浸しにすることで無駄なくいただくことができます。
クエン酸には小腸からのカルシウム吸収促進作用をアップしてくれます。クエン酸はカルシウムを溶けやすい形に変える作用がありますが、これを「キレート作用」と言います。
クエン酸は食べると酸っぱいと感じる酸味の成分で、レモンに多く含まれていることで有名です。他にも梅干しやオレンジ、酢などにも含まれます。
レモンに含まれるビタミンCは、ほうれん草に豊富に含まれる鉄の吸収の促進作用もあります。
β-カロテン(ビタミンA)とビタミンCが豊富なほうれん草にビタミンEを組み合わせることで、抗酸化作用の効果がアップします。ビタミンA・C・Eの3つはビタミンエースと呼ばれており、抗酸化3大ビタミンです。免疫力が高まり、サビついた細胞の修復を助けてくれます。ビタミンEが豊富な食材には、アーモンドや落花生、ヘーゼルナッツなどのナッツ類があります。他にもかぼちゃやさつまいもにもビタミンEは含まれます。
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