トルティーヤ・タコス・ナン・チャパティの違いを解説します。
トルティーヤとナン、チャパティはどれも薄焼きパンの一種で、タコスはトルティーヤを使った料理の一種です。
トルティーヤは、トウモロコシをすりつぶした粉を原料に作るメキシコの伝統的な平焼きパンです。トルティーヤは野菜などを巻いて食べる料理と認識している方が多いですが、実は生地そのものを指す言葉であり、トルティーヤを使った料理はブリトーやケサディージャ(ケサディージャ)など様々あります。タコスもトルティーヤを使った料理の一つで、トルティーヤに野菜や肉などの具材をのせて二つ折りにしたものです。
ナンは小麦粉に卵・バターなどを練り込んで発酵させてから、タンドールと呼ばれるかまどの内壁に張りつけて焼いたイラン発祥の平焼きパンです。日本ではカレーと一緒に食べることが多いです。
チャパティは、アーターとよばれる全粒粉と水、ギー(バター)だけで練った後、円型に平たく伸ばし、熱した鉄板かタンドールで焼き上げたインド発祥の薄焼きパンです。ナンと似ていますが、ナンとは原料が異なるのに加えて、発酵させずに焼くという違いがあります。インドでカレーと一緒にナンではなくチャパティを食べることが多いです。
トルティーヤは本来「マサ」と呼ばれるトルティーヤ専用の粉を原料に作られます。
マサとは、トウモロコシを石灰水などのアルカリ水で下処理した粉末のことです。トウモロコシの栄養素が吸収されやすくなっており、また粘り気が出るためトルティーヤが作りやすいという特徴があります。
近年ではマサと同じトウモロコシ粉末であるコーンフラワーやコーンミールを使用することが多いです。しかし、マサとは異なり生地として粘り気のある質感を得ることができないため、グルテンが含まれている小麦粉を加えることで質感を得ていることがほとんどです。
また、現在では小麦粉のみを使用して作ることもあり、トウモロコシで作ったものを「corn tortilla(コーントルティーヤ)」、小麦粉で作ったものを「flour tortilla(フラワートルティーヤ)」と区別します。
トルティーヤの発祥はメキシコです。オアハカではトルティーヤを作るための粘土盤が発見されており、紀元前500年前から食べられていたといわれる歴史ある食べ物です。
スペイン人がアメリカ大陸からトウモロコシをヨーロッパに持ち帰ってきたことがきっかけで広く食べられるようになりました。石灰を使ったトウモロコシの処理の仕方はヨーロッパ人の体質に合わずなかなか広まらなかったものの、メキシコ人は栄養失調症を予防するためにトウモロコシの食べ方を生活の知恵として受け継いできたといわれています。
「トルティーヤ」という名前はスペインの伝統的な卵料理「トルティージャ」に見た目が似ていることに由来します。しかし、トルティーヤとトルティージャは名前が似ているだけで全くの別物です。日本ではトルティージャは「スペイン風オムレツ」といわれることが多いです。
トルティーヤはそのまま食べることもできますが、チリソースをつけたり野菜やお肉などを巻いて食べることが多く、トルティーヤを使った料理は世界中に多く存在します。
そのためトルティーヤを野菜やお肉を巻いた料理名だと思っている方も多いですが、トルティーヤはあくまでも生地の部分のみを指します。
タコスは本場メキシコでは「マサ」のみで作ったトルティーヤに、野菜や肉などの具材をはさみ二つ折りにします。
北部メキシコでは小麦粉を原料に作られたフラワートルティーヤが使われることもあります。アメリカではトウモロコシを使ったコーントルティーヤが一般的に使われ、コーントルティーヤを使ったタコスを「ハードタコ」、フラワートルティーヤを使ったタコスを「ソフトタコ」と区別しています。
日本ではタコスに使われるトルティーヤもマサのみでは食べくいと感じる人が多いため、コーントルティーヤやフラワートルティーヤが使われるのが一般的で、マサに小麦粉を混ぜて作っているお店などもあります。
タコスが食べられるようになったのはおよそ6,000年前といわれています。
メキシコの先住民がしっかり栄養を摂取することができる携帯食としてトルティーヤを重宝しており、トルティーヤの中に塩茹でしたいんげん豆やチレ(唐辛子)をはさんで食べていたことが起源となって広まったといわれています。
タコスが食べられ始めた当初の具材は豆や野うさぎなどが中心で、昆虫を包んで食べることもあったようです。タコスがスペインでも食べられるようになると、玉ねぎやにんにく、コリアンダーといった野菜も挟むようになり、バリエーションが増えていきました。
「タコス」の名前の由来は軽食を意味するスペイン語「taco」です。魚介類のタコを意味するわけではありません。
タコスは鉄板で焼いたトルティーヤに具を盛り、好みでライムの絞り汁やサルサをかけて食べるのが一般的です。現在、タコスに使われる具材は主に牛肉などの肉類や海老や白身魚などの魚介類、野菜などです。
サルサは、細かく刻んだトマトやタマネギ、チリから作られる辛いソースです。サルサ以外にもアボガドを使ったワカモレとよばれるソースなど様々な種類があり、具材や味付けは地域や好みによって異なります。
具材を挟んで二つ折りにした状態で販売されていたり、パーティーなどでは生地に好みの具材を乗せて手で包んで食べたりすることも多いです。
ナンの原料は小麦粉と卵・バターなどです。
ナンは原料となる小麦粉などの材料をこねた生地を発酵させてから、タンドールと呼ばれるかまどの内壁に張りつけて焼きます。
タンドールとは龜(かめ)を伏せたような形をしている粘土性の窯で、炭や薪を燃やして加熱します。タンドールは480 ℃近い高温を維持することができるのが特徴で、タンドールで焼き上げたナンは中はもちもちとしていますが、外側はパリパリしています。
ちなみに日本で食べられているナンはしずくのような形をしていることが多いのですが、国や地域によって様々な形があり、丸いナンや三角形のナンもあります。実はしずくのような形をしていることのほうが世界では珍しく、一般的には丸いことが多いです。
ナンはインド発祥の平焼きパンだと思われていることが多いですが、起源はイランにあります。
約7,000~8,000年前程前から食べられていたといわれており、現地では主食として様々な食物と一緒に食べられていました。
イランでナンが食べられるようになった後、メソポタミアや古代エジプト、インド亜大陸に伝わり、インドから様々な国に伝わていったといわれています。これもナンの発祥がインドであると誤解されやすい理由の一つであるといえるでしょう。
「ナン」には、ペルシャ語で「パン」という意味があります。ペルシア語では「ナーン」といい、ナーンはパン類の総称でもあります。
日本ではナンはインドカレーと一緒に食べられることが多いです。
しずくのような形になっているナンの場合は、細長い側から一口大にちぎり、生地でカレーと具材をすくって食べるのが基本の食べ方です。
しかし、実はインドではカレーと一緒に食べるのはナンではなくチャパティであり、ナンと親しみがあるのはインドよりも日本です。
近年ではカレーと一緒に食べるだけではなく、野菜やチーズを乗せて焼いてピザにしたり、ケバブを挟んでケバブサンドにして食べることもあり、用途は広がっています。
チャパティの原料はアーターとよばれる全粒粉と水、ギーです。
ギーとは、牛乳や水牛の乳と無塩バターなどを煮詰めてから、水分やたんぱく質を取り除いて作られるバターオイルです。
原料を練った後に円型に平たく伸ばした生地を、熱した鉄板かタンドールで焼き上げます。
生地を平たく伸ばして発酵させずに焼くという点でトルティーヤと同じであり、見た目も非常に似ていますがトルティーヤはとうもろこしをすりつぶした粉を原料に作られるので原料が異なります。また、発酵させずに焼くという点でナンとも異なります。
チャパティの発祥はインドです。
ナンの原料となる小麦粉は、高級で一般家庭にとっては贅沢品でした。また、ナンを作るときに使われるタンドールはどの家庭でもあるものではないため、宮廷料理として出される富裕層の食べ物でした。対してチャパティは価格の安い全粒粉を使っており、発酵させる手間もかからずフライパンで簡単に焼けるといったことからインドで主食として食べられるようになりました。
「チャパティを上手く焼けないとお嫁にいけない」といわれるほど、現在でもチャパティは一般的に食べられており、1回で30枚ものチャパティを焼くそうです。
「チャパティ」という名前の由来は定かになっていませんが、「チャイ」に使われる紅茶の葉に似ていたことから「チャイ」と「葉」を意味する「パティ」を組み合わせて「チャパティ」といわれるようになったのではないかといわれています。
チャパティは現地ではカレーと一緒に食べられることが多く、日本でもインドカレーの専門店などではチャパティが一緒に出てくることがあります。
また、チャパティはトルティーヤと同じく様々な料理に使われることがあり、間にギーを塗りパイのように層をつくって焼いた「パラーター」やチャパティを揚げた「プーリー」など、チャパティを使った料理も様々あります。
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