黒酢と米酢・香酢はすべて醸造酢の一種であり、穀物酢に分類されます。それぞれ原料や製造方法が異なり、酸味や風味などに違いがあります。本記事では黒酢と米酢、香酢の違いについて詳しく解説します。
調理などに使われるお酢は「食酢(しょくす)」と言われ、食酢は穀物や果物、アルコール等の原料発酵(醸造)させて作る「醸造酢(じょうぞうず)」と酢酸などの科学的に作られた成分を水で薄めて酢の風味に調味した「合成酢」にわけられます。
家庭で使われるお酢のほとんどは醸造酢で、醸造酢は原料によって「穀物酢」または「果実酢」に分けられます。
穀物酢は、米や大麦、とうもろこしなどの穀類を原料とするものです。原材料として1種または2種以上の穀類を使用し、その使用総量が醸造酢1リットルにつき40g以上のものが穀物酢に分類されます。
果物酢は、りんごやぶどうなどの果実を原料とするものです。原材料として1種または2種以上の果実を使用したもので、その使用総量が醸造酢1リットルにつき果実の搾汁として300g以上のものが果実酢に分類されます。
出典:農林水産省日本農林規格
黒酢の原料は玄米です。醸造酢であり穀物酢の一種で、「黒米酢」ともいわれます。
玄米とは、もみ殻だけを取り除き、ぬかや胚芽が残っている状態のお米のことです。
現代では、玄米ではなく精米度の低い米や大麦を原料に作ることもあり、農林水産省の規格(JAS)では、1Lにつき180g以上の玄米を原料に使用したものを「米黒酢」、原料に大麦を使用したものを「大麦黒酢」と区別しています。
米酢の原料は米です。醸造酢であり穀物酢の一種です。
黒酢とは異なり精米された米を使って作られます。米に少量のエチルアルコールを添加し酢酸発酵させたものと、米以外の材料が使われていないものがあり、米のみで作られているものは「純米米酢」といわれます。
香酢はもち米を原料に作られる中国のお酢で、中国でお酢といえば香酢を指すことがほとんどです。
「香醋」と表記することもあります。「醋」は「酢」の異体字であり、どちらで表記しても間違いではありません。
日本でのお酢の分類に照らし合わせると黒米酢に該当するため、醸造酢であり穀物酢の一種であるといえますが、黒酢の原料は玄米ですので黒酢とは原料が異なります。
黒酢の製造方法はメーカーによっても異なりますが、壺の中で糖化、アルコール発酵、酢酸発酵をさせ熟成させるという伝統的な製法で作られていることが多いです。
黒酢発祥の地である鹿児島県では、まず、野外に置かれた壺に蒸した国産有機玄米と仕込水を混ぜ込み麹、水を入れ、その後壷の液体の表面にフタをするように乾燥麹を均一に振りまく「振り麹」と呼ばれる作業を行います。仕込んだ後は天日にさらしながら自然に糖化、アルコール発酵、酢酸発酵されるまで待ちます。壷に雑菌が入ってしまうと酢酸発酵まで上手く行われないため、365日休むことなく職人が毎日チェックをしながら2年程熟成させて黒酢が完成します。
米酢は、まず米を蒸したものに「米麹」と「水」を加えて「糖化もろみ」を作った後さらに酵母を加えてお酒の状態にします。お酒の状態にしたものに、酢酸発酵が終わった食酢の一部を混ぜ合わせて加熱し、発酵槽に入れて食酢菌膜を植えると酢酸発酵し、2週間程で米酢になります。その後1~2ヶ月間熟成させて完成させます。これを「静置発酵法」といいます。
最近では、原料液に機械で空気を送りながら攪拌する「全面発酵法」と呼ばれる製法で作られることもあり、この方法は、熟成はせず1~3日で大量の酢を造ることが可能であるため値段が安くなります。
香酢は中国の伝統的な酢で、中国雲南省や中国山西省、中国江蘇省などで製造されています。中でも江蘇省西南部にある鎮江市は、「鎮江といえば香酢」というほど有名です。
鎮江では、まず高級のもち米を良く洗った後水に浸してから大きなかまどで蒸し上げ、酢麹を加えてお酒の状態にします。その後もみ殻を加えて、温度を調整しながら繰り返しよくかき混ぜて微生物に空気を送り込み、時間をかけて発酵させ、もみ殻を水に浸して香酢の抽出をします。抽出した香酢液を「宜興甕(ぎこうがめ)」と呼ばれる陶磁器の容器に移し替え、半年~数年熟成させて完成させています。
黒酢の見た目は真っ黒です。これは壺の中で長い年月をかけて熟成させる過程でアミノ酸と糖が化学反応を起こすことで液体が着色されるためです。熟成期間が長ければ長いほど色が濃くなります。
黒酢は長い年月をかけて熟成させて完成するため、酸味が落ちて酢特有の鼻にツンとくる香りが少なく、まろやかな香りとコクがあるのが特徴です。
米酢の見た目は、薄黄色〜茶透明です。黒酢と比較すると違いは一目瞭然です。
静置発酵で作られた米酢は熟成期間が短いため、黒酢や香酢と比較して酸味が強いのが特徴で、黒酢のようなコクはありませんが、お米特有の甘みと旨味があります。全面発酵法で作られているものは熟成しない状態で販売されているため、より酸味が強く鼻にツンと刺激臭がして、淡白な味がします。
香酢の見た目は黒酢と同じく黒色をしています。目視では黒酢と香酢を見分けるのは難しいでしょう。
香酢の黒色は長い時間をかけて熟成させることによるものだけではなく、製造過程で籾殻を加えることも要因になっているといわれています。
香酢も熟成期間が長いため、酸味が落ちツンと鼻にくる刺激臭はありません。米酢にはない豊かな香りとまろやかな風味、旨味とコクのある味わいです。
黒酢100gに含まれている栄養素は下記の通りです。
たんぱく質…1g
脂質…0g
炭水化物…9g
食物繊維…0g
ビタミンB1…0.02g
ビタミンB2…0.01mg
ナイアシン…0.6g
ビタミンB6…0.06mg
ビタミンB12…0.1μg
葉酸…1μg
パントテン酸…0.07mg
ピオチン…1μg
ナトリウム…10mg
カリウム…47mg
カルシウム…5mg
マグネシウム…21mg
マグネシウム…21mg
リン…52mg
鉄…0.2g
亜鉛…0.3mg
銅…0.01mg
マンガン…0.55mg
クロム…2μg
モリブデン…9μg
黒酢は、玄米を原料に作られているということもあり、ビタミンB群やカリウムなどのミネラルなどのミネラル類も含まれています。
黒酢100gのカロリーは54kcal、大さじ1(15g)あたりのカロリーは10gです。調理に使う場合など基本的には大量に入れることはないので神経質になる必要がありませんが、ジュースに加えて飲んだり砂糖をたっぷりと加えて煮物を作るなど摂取の仕方によってはカロリーが高くなり糖質量も多くなるため注意しましょう。
黒酢のアミノ酸含有量は約600mgです。普通の酢の約10倍ものアミノ酸が含まれているといわれ、中でも「必須アミノ酸」といわれる人の体内では合成されず食事から摂らなければならない9種類のアミノ酸のうち8種類(リジン、フェニルアラニン、スレオニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、ヒスチジン) が含まれています。その他にも合計約17種類のアミノ酸が含まれていることがわかっています。
また、黒酢100gあたりにはアミノ酸の他にも酢酸や乳酸菌、コハク酸、クエン酸などの有機酸が約4g含まれています。
米酢100gに含まれている栄養素は下記の通りです。
たんぱく質…0.2g
脂質…0g
炭水化物…7.4g
食物繊維…0g
ビタミンB1…0.01g
ビタミンB2…0.01mg
ナイアシン…0.3g
ビタミンB6…0.02mg
パントテン酸…0.08mg
ピオチン…0.4μg
ナトリウム…12mg
カリウム…16mg
カルシウム…2mg
マグネシウム…6mg
リン…15mg
鉄…0.1g
亜鉛…0.2mg
クロム…1μg
モリブデン…4μg
米酢は栄養素が多く含まれているぬかや胚芽を取り除いた状態の精米されたお米を原料に作られているため、黒酢と比較してビタミンB類やカルシウムなどのミネラル類の含有量が少なくなります。
米酢100gあたりのカロリーは46kcalです。
米酢に含まれるアミノ酸含有量は約227mgで、15種類のアミノ酸が含まれています。
アミノ酸は熟成させていく上で増えていくため、熟成期間が短い米酢は長期間熟成させて完成する黒酢と比較してアミノ酸含有量は少なくなりますが、70種類以上の有機酸が含まれています。特に米酢には疲労回復などに効果があるクエン酸が多く含まれています。
香酢100gに含まれる栄養素は厚生労働省の食品成分データーベースなどにも記載がないため、詳細は不明ですが、参考までに上述した鎮江市で製造された「鎮江香酢」に記載されている三大栄養素を紹介します。
たんぱく質…4.08g
脂質…0g
炭水化物…5.2g
香酢はもち米を主原料に作られますが、製造過程で籾殻(小麦ふすま)を用いるためもち米の栄養素以外にも小麦ふすまに含まれている栄養素が含まれていると考えられます。
香酢100gに含まれるカロリーは約34kcalです。
香酢には黒酢以上にアミノ酸成分が豊富に含まれているといわれており、さらにクエン酸やコハク酸、乳酸、酢酸などの有機酸も豊富に含まれています。
上述したようにしっかりと熟成されているため酸味がまろやかで、有機酸をたっぷり摂取したいけれど米酢のような鼻につく刺激臭や酸味の強さが苦手という方には香酢がおすすめです。
出典:文部科学省食品成分データーベース
黒酢・米酢・香酢は、どれも料理に酸味を加えたいときに使うことができます。上述したように原料や製造方法が異なり、味や風味にそれぞれ違いがあるため料理や好みに合わせて使い分けると良いでしょう。
黒酢・米酢・香酢は酢豚などの炒めものや煮物をするときに使うことができます。黒酢や香酢はアミノ酸を多く含むため独特のコクや風味があるのが特徴で、肉や魚の生臭さを抑えることができます。また、酸味が少なく甘酸っぱくまろやかな食欲を誘う一品となります。
米酢は黒酢や香酢と比較して酸味が強いため、炒めものや煮物に使うと肉や魚の油っこさを抑えさっぱりと仕上げることができます。また、クエン酸などの有機酸を多くため、より肉や魚を柔らかく仕上げます。
マリネや酢の物、ドレッシングなど加熱をしないものには、酸味の強い米酢が使われることが多いです。米酢の酸味は加熱調理をすると弱くなるので、ガツンと酸味を感じたい場合には加熱をせずに使うのがおすすめです。
反対に、鼻にツンとくる匂いや酸味が苦手な方には酸味が弱くまろやかな黒酢や香酢を使うのが良いでしょう。黒酢や香酢を使うことでコクや旨味を出すこともできます。
お寿司やちらし寿司などに使う酢飯には基本的には米酢が使われますが、黒酢や香酢を使って酢飯を作ることもできます。
ただし、黒酢や香酢を使うとご飯が黒くなり米酢を使った酢飯とは風味なども異なります。どちらを使って作っても問題ありませんが、お寿司やちらし寿司などの場合はマグロなどその他の具材との相性や好みに合わせて選ぶと良いでしょう。
黒酢や香酢は米酢と比較して栄養価が高く、まろやかでコクがあり飲みやすいためドリンクにして飲むのが人気です。
ただし、まろやかといえど原液のまま飲むと胃に負担をかけてしまうことがあります。黒酢や香酢を飲むときは、5倍ほどに薄めて飲むようにしましょう。水やお湯、炭酸で薄めるだけでも良いですし、野菜ジュースなどに加えて飲んでも良いです。ただし、ジュースでは糖分が多いためダイエット中の方は注意してください。
上述したように料理に酸味を与えるという点では黒酢・米酢・香酢はお互いに代用することが可能です。
ただし、酢は特に酸味が強く黒酢や香酢とは異なり旨味やまろやかなコクがありません。米酢を黒酢や香酢の代用品にするのであれば、オイスターソースなどの調味料を合わせることで黒酢や香酢に似たまろやかさやコクを出すことができます。
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