ボタニカルな原料から造られるジンとアブサン。この記事では、ジンとアブサンを原料や味・香り、飲み方などの視点から解説します。
ジンは蒸留酒(スピリッツ)の一種で、アブサンは混成酒(リキュール)の一種です。お酒は大きく「醸造酒」、「蒸留酒(スピリッツ)」、「混成酒(リキュール)」の3種類に分けられます。
醸造酒とは、穀物や果実などの原料を酵母によってアルコール発酵させて造られるお酒で、世界最古のお酒と言われています。
ビール、ワイン、日本酒、紹興酒などが醸造酒に分類されます。
醸造酒のアルコール度数は、原料の糖分がアルコールに変わってしまうと発酵が止まるため、基本的にアルコール度数は20度以下となっています。
蒸留酒とは、醸造酒を加熱して造られるお酒で、スピリッツ(spirits)とも呼ばれます。蒸留によって純度の高いエタノールを生成する製造方法のため、アルコール度数が高いのが特徴です。
蒸留酒には、ブランデー、ウイスキー、焼酎、ウォッカ、ジン、ラム、テキーラなどがありますが、日本においては、一般的に「スピリッツ」とはウォッカ、ジン、ラム、テキーラを指すことが多く、この4種類のお酒は「世界4大スピリッツ」と呼ばれています。
混成酒は、蒸留酒を原料として、薬草や果物で風味をつけたお酒で、再製酒とも呼ばれます。日本で「リキュール」と呼ばれるお酒の多くは混成酒で、日本で一番有名なのは梅酒でしょう。近年では日本酒などの醸造酒をベースとしたリキュールも人気です。
醸造酒や蒸留酒に比べ、色鮮やかで、多種多様な味わいのお酒が多いのが特徴です。有名なものではクレーム・ド・カシス(カシス・リキュール)、カンパリ、カルーア(コーヒー・リキュール)などが挙げられます。
ジンの基本的な原料は大麦、ライ麦、トウモロコシ、ジャガイモといった穀物ですが、ジンの場合、香り付け用に様々な原料が使用されており、ジンの香りの決め手となる「ジュニパーベリー」という果実を乾燥させたスパイスをはじめ、様々なハーブやスパイス、フルーツが用いられています。
ジュパニーベリーは、日本語では「セイヨウネズ(西洋杜松)」と呼ばれる針葉樹に成る果実で、「ベリー」という名前がついているものの、他のベリー系の果実とは少し異なる、スパイシーで爽やかな風味を持ち、これがジンのクリアでドライなテイストの決め手となります。
香りづけに用いるジュニパーベリー以外の原料は、コリアンダー、アニス、キャラウェイ、フェンネル、カルダモンなどの種子、アンジェリカ、オリス、リコリスなどの根、レモンやオレンジなどの果皮、シナモンの樹皮など様々です。
「アブサン」は、蒸留酒とニガヨモギなどの薬草から造られる薄い緑色のリキュールで、銘柄の1つである「ぺルノー」という名前で呼ばれることもあります。
ニガヨモギに含まれるツヨン(ツジョン)の持つ幻覚などの向精神作用や中毒症状などによって、20世紀には多くの国で禁止・制限が課されていた歴史を持つ、いわくつきのお酒でもあります(ただし現在では、ツヨンの持つ作用ではなく、単なるアルコールの過剰摂取や、安価なアブサンに含まれていた化学物質によるものというのが定説になっています)。
パスティスというニガヨモギを使用した代替品もありますが、現在ではツヨンの含有量が一定以下であることを条件にWHO(世界保健機関)が製造を許可しており、世界中で愛好されています。
ジンは、穀物などの原料を発酵・蒸留させたものを「ベーススピリッツ」と呼び、ベーススピリッツにジュニパーベリーを始めとしたスパイスやハーブ、フルーツなどの「ボタニカル」で香り付けすることで完成します。
香りづけの方法は、ベーススピリッツにボタニカルを漬け込んで再度蒸留を行う方法と、ベーススピリッツのみ蒸留して蒸気の通り道にボタニカルを置く方法の2通りに分かれています。現在、多くのメーカーは前者の漬け込む方法を用いています。
アブサンの製造方法はジンとよく似ており、ベースとなる高アルコール度数のスピリッツ(蒸留酒)にニガヨモギなどの薬草を漬け込み、再蒸留を行うのが一般的です。ただし、アブサンの場合はここから再度薬草などの漬け込みを行い、色付けや香りづけを行っています。
なお、ベースとなるスピリッツに薬草から抽出したエッセンス(精油など)を直接溶かし込む製造方法もあり、こちらは低価格の普及品で多く見られる手法です。
ジンは、ジュニパーベリーを始めとしたスパイスやハーブ、フルーツなどのスパイシーで爽やかな独特の香りを持つ、切れ味のあるクリアな味わいが特徴的です。製造しているメーカーで香り付けに使用している原料が異なるので、製品ごとに違った味わいが楽しめます。
定番の「ドライジン」以外には、まろやかな甘みを特徴としたオランダ産の「ジュネヴァ」、バランスの良い風味のドイツ産の「シュタインヘーガー」、甘めのドライジンともいえるイギリス産の「オールドトムジン」があります。また、生産されている地方によって風味の異なる「クラフトジン」が近年人気を博しています。
製品は40~50度のアルコール度数で売られている製品が多くなっていますが、飲む人の好みに合わせて37度前後、50度以上のジンも販売されています。ちなみに、EU(欧州連合)ではジンのアルコール度数は「37.5度以上」と定義づけられています。
アブサンは、ニガヨモギなどの薬草が持つ独特の苦みや香りで、好き嫌いの分かれるお酒です。ただし、原料とする蒸留酒や薬草の種類によって味が大きく変わるともいわれています。タイプは大きく2種類に分けることができ、華やかなハーブの香りが感じられる西ヨーロッパ諸国で造られているタイプと、ニガヨモギの味と香りが強く、苦味のある味わいの、チェコなどの東ヨーロッパ諸国で造られているタイプがあります。
製品の多くはアルコール度数が70度前後と、とても高いのも特徴的です。
ジンは、その切れ味ある飲み口から、炭酸水やトニックウォーター、ライムとの相性が良く、カクテルの「ジン・トニック」はとても有名ですね。また、「マティーニ」、「ネグローニ」、「ギムレット」はジンをベースとした人気のカクテルです。
ジュースで割るなら柑橘系のジュースや、炭酸系のコーラやジンジャーエールと相性が良いですよ。オランダやドイツで生産されている甘めのジンはストレートやロックでも飲まれています。
アブサンの飲み方は、「アブサンファウンテン」という専用の器具と角砂糖を使用した「ボヘミアンスタイル」という、アブサンの色の変化を楽しむストレートの飲み方が有名ですが、基本的にはカクテルの材料の一部として使われることが多いです。
レモンやライムを絞って炭酸水で割れば「アブサン・フィズ」、ジンジャーエールで割れば「アブサン・バック」となり、爽快感ある味わいが楽しめます。また、牛乳で割ることで苦みや高い度数を和らげて飲むこともできます。
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