パイクプッシュアップは、自重で三角筋を鍛えることができる数少ないエクサイズの一つです。今回は、パイクプッシュアップのやり方及びコツをご紹介します。
パイクプッシュアップとは、「pike pushup」、つまり、「槍のプッシュアップ」を意味します(「パイクプレス」と表現することもありますが、全く同一の種目を指します)。これだけでは全く意味不明ですが、実際にパイクプッシュアップが地面に頭を突き刺すように(実際には突き刺しませんが)して実施するエクササイズであることを考えると合点がいくかもしれません。
「プッシュアップ」というと、どうしても腕の筋肉、もしくは胸の筋肉を鍛える種目である印象が非常に強いですが、パイクプッシュアップはそれとは少し異なります。前述したように、わざと、槍の様にして頭を地面に突き刺すようなエクササイズを行うことで、主に、肩の筋肉で前部、中部、後部からなる三角筋の前部と中部を中心に鍛えます。
パイクプッシュアップは、前述した通り、通常のプッシュアップとは軌道が大きく異なります。パイクプッシュアップは、通常のプッシュアップではご法度とされている動作の「お尻を上げる」ということをすることで、肩から下がるようにします。こうすることで、ターゲットとなる部位が、プッシュアップのターゲットである大胸筋よりも、やや上側に移動することで三角筋に刺激が入るようになります。
ここで、三角筋は、前部、中部、後部からなります。
三角筋前部とは、肩の前部についている筋肉、つまり、大胸筋上部の上側に位置する筋肉です。三角筋前部が発達していると、大胸筋との区別がはっきりとし、これにより肩がより丸みを帯びて見えるようになることが期待できます。
三角筋中部とは、肩の側面についている筋肉です。三角筋中部が発達していると、側面から見たときの腕の凹凸がはっきりすることはもちろんですが、正面から見たときの肩が張り出して見えるようになることが期待できます。
三角筋後部とは、肩の後ろについている筋肉であり、三角筋後部が発達していると、肩甲骨周りの凹凸感が出るようになり、非常に逞しい見た目になることが期待できます。
これらの中で、パイクプッシュアップで鍛えることができるのは三角筋の前部と中部であり、これにより、正面から見たときの肩の印象を大きく改善することを期待できると言えます。
パイクプッシュアップでは、通常のプッシュアップでの主なターゲットとなる大胸筋及び上腕三頭筋に刺激が入らないように、お尻を上げて実施することで三角筋に刺激を入れます。その一方で、どうしてもプッシュアップと同様に上腕三頭筋にも刺激が入ります。
ここで、上腕三頭筋は、上腕二頭筋、上腕筋とともに上腕を構成する筋肉です。
上腕三頭筋は、いわゆる二の腕と言われる部位にある筋肉です。上腕三頭筋は、外側頭、長頭、内側頭から構成されています。外側頭は上腕三頭筋の外側の筋肉であり、長頭は上腕三頭筋の内側の筋肉であり、これらの内側に内側頭があります。内側頭と外側頭を合わせて短頭ということもあります。これらの筋肉は、主に、肘関節を伸展させる役割があります。
上腕二頭筋は、いわゆる「力コブ」と言われる筋肉です。上腕二頭筋は、長頭と短頭から構成されています。長頭は上腕二頭筋の外側の筋肉で、肘を曲げる動作に関係する筋肉です。また、短頭は上腕二頭筋の内側の筋肉で、肘を曲げる動作と前腕を旋回する動作に関係する筋肉です。
上腕筋は、少しマニアックな筋肉です。上腕筋は、上腕二頭筋の下側に位置している筋肉で、肘関節の屈曲に関係する筋肉です。上腕筋を鍛えていると腕の印象が大きく変わり、非常に逞しく見えるようになります。
パイクプッシュアップでは、上腕三頭筋にも刺激を入れることで、腕の引き締め効果に寄与します。上腕というと、どうしても力コブである上腕二頭筋をイメージしがちですが、実際には上腕三頭筋の方が筋肉のサイズが大きいです。このため、腕の引き締め効果を狙うならば上腕三頭筋を鍛える方が効果的です。
上腕三頭筋と同様に、大胸筋上部もパイクプッシュアップで狙う部位ではありませんが、どうしても刺激が入ってしまいます。
ここで、大胸筋は、大胸筋上部(上側1/3)、中部(中央1/3)、下部(下側1/3)からなる筋肉です。
大胸筋上部は、腕を肩よりも上に上げる動作、すなわち、屈曲動作を行う際に稼働される部位です。このため、腕を肩よりも上に上げる動作であるインクライン系の種目を実施することで効率良く鍛えることができます(これは、言い換えれば、三角筋の前部を鍛えるためのプレス系の種目でも大胸筋上部に刺激が入ってしまい、その逆に、前述した種目により大胸筋上部を鍛える際には三角筋前部にも刺激が入ってしまうことを意味します)。
大胸筋中部は、腕を90度まで上げて胸の前で閉じるような動作、すなわち、水平内転動作を行う際に稼働される部位です。このため、この動作を素直に行うダンベルフライは、大胸筋中部を鍛えるために有効な種目であると言えます(この「胸の前で閉じる」という動作が有効であることから多くの人は、チェストプレスのトップポジションにおいてダンベルを寄せるような動作を行いますが、玄人でないと負荷が抜けやすいためオススメできません)。
大胸筋下部は、90度に上げた腕の上腕部を身体に近づける動き、すなわち、内転動作を行う際に稼働される部位です。このため、身体を下側に配置して腕が下半身方向に動き易くなるディクライン系の種目を実施することで効率良く鍛えることができます。
以上の中でもパイクプッシュアップは大胸筋上部を鍛えることができ、大胸筋の上側のボリュームや広がりの改善を期待できます。
パイクプッシュアップは、10〜12回を3セット実施します。
パイクプッシュアップは、可動域を狭くしたプッシュアップとも捉えることができますが、それでもエクササイズ強度はやや高めです。このため、標準的なエクササイズでの推奨回数よりも少なめの10-12回3セットを目標に実施しましょう。つま先立ちで実施するのが難しい場合には膝をついて実施しても問題ありません。
パイクプッシュアップは、前述した通り、プッシュアップに分類されるため、エクササイズ強度はやや高めです。このため、毎日実施するには少し負荷が高すぎるエクササイズであると言えます。目安としては、1週間に多くても2回程度、1度やったら3日程度の間隔を空けて実施するのが良いでしょう。
パイクプッシュアップでは、他の種目と同様に、負荷が入っている可動域の中で実施することが重要です。パイクプッシュアップにおいて、可動域を完全に設定しようとした場合には、肘を完全に伸ばした状態から、おでこが床に付く場所まで下げ、再び肘を完全に伸ばす必要があります。しかし、肘が伸び切ってしまうと、身体の重さを肘で支えることになり、肩に刺激が入り難くなります。このため、肘は伸ばし切らずに実施することが重要であり、トップポジションにおける肘がやや曲がった状態に設定するようにしましょう。
パイクプッシュアップでは、脚をどのように設定するかで負荷が大きく変わります。通常のパイクプッシュアップでは、床でつま先立ちになって実施しますが、通常のプッシュアップと同様に、負荷を高めるためには少々高い場所に脚を置くことも効果的です。これにより、ボトムポジションにおいて、肩にかかる体重由来の負荷が高くなるためであり、究極的には完全に脚が頭の上にある逆立ちプッシュアップが最も負荷が高くなります(負荷が高い割には、実施するのが難しく、かつ、安全性に問題があるためオススメではありませんが)。逆に、負荷を小さくする場合には、膝立ちで実施しても問題なく、通常のパイクプッシュアップを実施するのが難しい方は、まずは膝立ちで実施できるようにしましょう。
パイクプッシュアップでネックになるのが、基本的におでこを床につけて実施しますが、三角筋の可動域に対してパイクプッシュアップで設定できる可動域は限定的です。これを解決できるのがプッシュアップバーです。プッシュアップバーとは、プッシュアップを実施するための持ち手を床に作るトレーニンググッズです。プッシュアップバーをプッシュアップを実施する際に使用するメリットとして、プッシュアップバーの持ち手の高さの分だけボトムポジションを下に設定できるため、これによりストレッチの負荷をより積極的に入れることが可能です。これは、パイクプッシュアップでも同様であり、プッシュアップバーの高さの分だけおでこを深く下げることができるため、パイクプッシュアップの可動域が三角筋の可動域に近くなり、より負荷を高めることができます。
パイクプッシュアップに限った話ではありませんが、鍛えている部位を意識することは非常に有効です。これは、筋トレ用語で「マインドマッスルコネクション」と呼ばれるテクニックであり、トレーニング中は鍛えている部位の動きを意識しながら実施するとエクササイズの効率が大きく向上します。このため、最初は難しいですが、三角筋の動きを鏡でチェックしながら、自身の実施している種目の中での三角筋前部の動きを意識するのがオススメです(トレーニング中上級者の動画を見ながら、それをイメージして実施するのも効果的です)。
パイクプッシュアップに限った話ではありませんが、トレーニング中の全ての動作は自身の管理下に置く必要があります。トレーニング中の動作を管理下に置くには、筋トレの動作のスピードをコントロールする必要があります。これは、もう少し噛み砕くと、トレーニングをしている最中に扱っているバーベル、ダンベル、マシンの重量の動きをコントロールすることになります。ここで、高重量を扱いすぎると、動作の際に動きをコントロールできなくなり、エクササイズ効率が低下することはもちろんですが、怪我の原因にもなります。
具体的に、動作のスピードは、教科書的には、重りが下がるときはゆっくり(「ネガティブ動作を意識する」とも表現されます)、重りが上がるときは素早く(「ポジティブ動作を意識する」とも表現されます)するということがあります (上級者になると、この限りではなく、全ての動作をゆっくりにするスロートレーニングや、スロートレーニングからさらにゆっくりにするスパースロートレーニングなどのテクニックもあります)。重りを下げるときは、地球では重力が下方向に常に働いているため、その重力に争う様にゆっくり下げます。一方、重りを上げるときは重力とは逆向きの運動になるため、素早く上げます。
ネガティブ動作とポジティブ動作のうち、特に重要なのがネガティブ動作です。このネガティブ動作をしっかりと意識するだけで、どんなトレーニングでもトレーニングの質は劇的に改善します。
パイクプッシュアップに限った話ではありませんが、トレーニング中に呼吸方法を意識することでトレーニング効率の改善を期待できます。呼吸は、筋肉の伸展と収縮を促し、パイクプッシュアップでは、身体を下ろすときに息を吸い、身体を上げるときに息を吐くことを意識しましょう。
慣れないうちは、これが逆になってしまってもそこまで重篤な問題が発生するわけではありませんが、息を止めてトレーニングを行うということは絶対に避けましょう。息を止めてトレーニングを行うと、一時的に大きな力を発揮できるという考え方もあります。しかし、これはあくまでも重量を競うパワーリフティングやウェイトリフティングでの話です。トレーニングをして、身体を成長させようとした場合には、必ずしも重量を扱う必要がないことから、呼吸を止めるのではなく、呼吸をしっかり行うことが重要です。ここで、呼吸を止めて実施すると、最悪、血圧が急激に上昇し倒れてしまうというケースもあるため注意が必要です。
最後に、パイクプッシュアップ以外に同じ部位に刺激が入る筋トレを紹介します。同じ部位を鍛える際に複数の種目を実施し多くの刺激を入れた方が効果的に鍛えられるので、様々な筋トレを取り入れるのがおすすめです。
ダンベルショルダープレスは、12〜15回を3セット実施します。
ダンベルショルダープレスは、扱う重量にもよりますが、基本的にはエクササイズ強度は通常のエクササイズに分類できます。このため、標準的なエクササイズでの推奨回数である12-15回3セットを目標に実施しましょう。
立って実施しても良いが、その場合、腰を痛めない重量設定にする。
肩甲骨を寄せない。
アジャスタブルベンチで実施する際には、角度をつけすぎない。
肘を伸ばし切らない。
軽い重量で実施する場合には、ダンベルを下ろすときに握りを浅くするとより負荷が高まる(重い重量で実施すると危険であるため注意が必要)。
ダンベルの軌跡は床に対して垂直。
ダンベルフロントレイズは、8〜10回を3セット実施します。
ダンベルフロントレイズは、三角筋前部の単関節種目に分類することができ、基本的にエクササイズ強度は高いです。このため、標準的なエクササイズでの推奨回数よりも少なめの8〜10回3セットを目標に実施しましょう。
基本的には、両手で同時に実施して問題ありませんが、高重量になった場合には片手ずつ丁寧に実施するやり方もありますが、その場合にも回数の設定は同様です。
ダンベルの動きを終始コントロールする。
手幅、グリップを変えることで様々な負荷を入れることが可能。
肘を伸ばし切らない。
身体を煽って挙げない。
高重量で実施しない。
バーベルアップライトロウは、10〜12回を3セット実施します。
バーベルアップライトロウは、三角筋前・中部の複合関節種目に分類することができ、重量を扱いやすい種目です。このため、標準的なエクササイズでの推奨回数よりもやや少なめの10-12回3セットを目標に実施しましょう。
手首を掌屈させる。
ナローグリップで実施する方法もあるが、基本的にはワイドグリップ。
高重量だと身体を煽りがちになるが、できるだけ身体は煽らない。
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